次世代成長戦略とグローバルガバナンス

大林グループの持続的成長に向けた事業変革への取り組み、ガバナンス・人材の強化、そして次期中期経営計画の展望について、取締役会議長と社外取締役5名で対話を行い、率直な意見を交わしました。

(左から)

■ 社外取締役 注連 ​浩行 
ユニチカ株式会社代表取締役会長を経て、2024年から現職

 

■ 社外取締役 加藤 ​広之
三井物産株式会社代表取締役副社長執行役員を経て、2021年から現職

 

■ 取締役会長 兼 取締役会議長 大林 剛郎

 

■ 社外取締役 折井 ​雅子
サントリーウエルネス株式会社専務取締役、公益財団法人サントリー芸術財団総支配人を経て、2020年から現職

 

■ 社外取締役 黒田​ 由貴子 

株式会社ピープルフォーカス・コンサルティングを設立、2022年から現職

 

■ 社外取締役 池川 ​喜洋  

三菱ケミカルホールディングス代表執行役を経て、2024年から現職

 

 

 

 

堅調な国内建設事業をどのように捉え、 今後どのような付加価値を生み出し 競争優位性を確立していくべきか

大林 足元では国内建設事業での業績が堅調に推移しています。過去を顧みると、われわれ建設産業は景気の影響を受けやすい産業です。かつては、民間企業による建築需要が冷え込んだ際、それを補完するかたちで土木を中心とする公共投資がなされるなど、建築と土木が相互に補完し合い、業界全体の需要を下支えする構造となっていました。こうした歴史的背景や、バブル崩壊、リーマンショックなどの教訓を踏まえ、当社グループは外部環境の変化に左右されにくい強固な収益基盤と組織体制の構築を進めてきました。現在、国内建設事業の収益性が大きく向上していますが、この現況を社外取締役の皆さまはどのように評価されているか、まずはご所見を伺いたいと思います。

黒田 近年、発注者と請負者の関係がより対等で健全な関係性へと変化してきている点は、非常に好ましい傾向であると捉えています。こうした環境変化も踏まえ、足元の業績が好調に推移していることは肯定的に受け止めていますが、この状況がこのまま持続するとは限りません。好調な今だからこそ現状に安住することなく、先を見据えた準備や投資を積極的に実行すべきと考えます。現在、建設大手各社が独自の成長戦略を描き出しており、まさに「戦略の質」が問われる重要な局面に入ってきていると認識しています。

 

注連 黒田さんのお話にありましたように、建設需要が安定的に推移している今だからこそ、中核である国内建設に限らず、将来に向けた投資や事業育成を進めるべきと私も考えています。今後の国内建設事業において他社との明確な差別化を図りさらなる成長を遂げるためには、「技術力」と「情報力」の双方を一層強化していく必要があります。とりわけ、営業部門が先んじて優良な情報を獲得していく情報力が、重要なカギになると捉えています。

大林 昨今の資材価格や労務費などの高騰により建設コストは上昇しており、お客さまの設備投資計画のみならず、成長戦略にも影響が及びつつあります。単に採算が合わないという理由で仕事をお断りすることは簡単ですが、当社はこれにとどまるべきではないと考えます。むしろ、普段からお客さまと密にコミュニケーションを図り、計画に関する情報を迅速に把握することが重要です。加えて、協力会社との連携を通じて強固なサプライチェーンを確保し、これに当社の技術力および提案力を掛け合わせることで、お客さまの予算の範囲内で最適なソリューションをいかに提供できるかが問われていると認識しています。また、注連さんからご指摘のあった情報力の強化や他社との差別化を図る上では、その根幹を成す「コミュニケーション力」が不可欠です。技術開発部門においても、現場や営業部門、そしてお客さまが直面している課題を直接見聞きした上で、その解決に向けた知見を技術開発へと昇華させていく取り組みを徹底すべきであると考えています。今後確立していくべき付加価値や競争優位性についてはいかがでしょうか。

 

折井 現在の国内建設事業の収益性向上は、採算性を重視した受注活動や、各現場における利益改善に向けた弛まぬ努力の成果であることは言うまでもありません。一方で、建設市場における需給バランスの影響も大きいと認識しています。したがって、業界全体の動向に左右されない当社の強固な競争力を確立すべきです。そのためには、まずイノベーションを通じた生産能力の確保と拡充が最重要課題であると考えます。これまで、現場視察などを通じて建設現場における多様な技術の活用を実感してきましたが、今後は遠隔操作技術や熟練技能労働者の技術のデジタル化などを早期に実装し、生産能力を質と量の両面で高めていくことが求められます。データセンターや防衛関連施設といった新たな市場ニーズへの的確かつ迅速な対応も不可欠です。併せて、大林グループ中期経営計画2022に掲げるとおり、カーボンニュートラルやウェルビーイングの分野で当社独自の価値を発揮し、社会課題の解決をビジネス機会につなげることで、大林グループが持続的な優位性を築いていくことを強く期待しています。

 

池川 建設コストや人件費が上昇傾向にある中においても適切な利益水準を確保するためには、お客さまとの密なコミュニケーションの徹底が重要であると認識しています。一方で、建設事業のキャパシティの拡充に向けては、M&Aなどによる成長も選択肢の一つであり、事業戦略との整合性を踏まえた案件の見極めが不可欠です。また、ZEBなどの環境配慮型建築の推進については、近年、収益性の確保が可能な水準に達してきており、AIやデジタル技術の活用を通じて、これらの取り組みを一段と加速させるべきと考えます。

 

加藤 大林グループにおける最大の強みは、「人材の力」にあると認識しています。折井さんが指摘したイノベーション、池川さんが指摘したAI・デジタル技術活用を踏まえ、これらの技術の動向を的確に捉え積極的に導入し、定型業務の機械化・省人化を進めることで、人材の力をさらに高めることが可能と考えます。また、危険を伴う建設現場での作業をロボットが代替するようになれば、安全および品質の確保という経営の最優先事項への対応にも資するものと考えます。さらに、AI技術の活用にあたっては、国内外の知見を有する企業と協業を進めることで、AIの高度な活用を加速させ、当社の競争力強化につなげられると考えています。

黒田 国内建設事業における当社の競争優位性の本質は、高い営業力と提案力にあると認識しています。特に提案力は、外部からは見えにくい領域ではありますが、当社としては意識的に強化を図ってきた強みです。かつては、この部分は課題とされていましたが、教育や研修への継続的な投資を通じ、着実に底上げを図ってきました。すなわち、人的資本への積極的な投資が「提案力」というかたちで競争優位性に結実し、さらには業績向上にも連動していくという、明確な「価値創造ストーリー」を当社はすでに描けているものと評価しています。今後の課題は、まず当社自身の強みをより明確に認識し、適切に言語化することだと考えます。その上で、それを継続的に磨き上げていく仕組みを確立し定着させていく必要があります。加えて、投資家の皆さまに対しても、論理的かつ分かりやすくお伝えしていくことが重要です。本日のようなダイアログも含め、情報発信を充実させることで、当社グループの本質的な強みに対する市場からの理解と評価を一層高めていきたいと考えます。

折井 当社グループの社員とのコミュニケーションの場面で、当社が保有している優れた技術や先進的な知見を社外に十分に訴求しきれていないのではと感じることがあります。提案力は単なるプレゼンテーションにとどまらず、市場のニーズや社会の課題を的確に把握し、それらに対し当社の技術力によって応えていくこと、こうした新たな価値を創出するプロセスを、説得力を持って発信していくことが重要と考えています。

 

国内建設以外の事業の拡充

大林 次に、国内建設以外の事業の拡充について伺います。当社は国内建設を中核としつつも、将来的にはそれ以外の事業領域が、国内建設と同等以上の業績を創出する強固なグループ事業体制を構築することを目指しています。この点について、皆さまのご所見はいかがでしょうか。


黒田 当社グループは、重要な成長戦略の一環として、北米、アジア、オセアニアといった海外地域において、各地域で構築してきた強固な事業基盤を最大限に活用しながら、グローバル市場での成長機会の獲得を進めてきました。これまでに実行したM&Aについても、単なる規模拡大にとどまらず、各地域における事業基盤の強化や収益力の強化につながっており、着実な成長軌道を描いてきた点は高く評価できると考えます。

注連 戦略的なM&Aを通じて北米における事業領域および展開エリアの拡大を推進し、これが確実な成果へと結実することを強く期待しています。また、グリーンエネルギー事業などの比較的新しい事業分野については、これらが向こう5年から10年のスパンにおける当社の新たな成長の柱となり得るか否かを、厳格に見極めるべき時期を迎えていると考えます。むやみに事業領域や進出地域を拡大するのではなく、有望な事業や地域を的確に見定めた上で、集中的な投資を実行していくことが肝要ではないでしょうか。


折井 北米事業におけるグランドデザイン※に基づく取り組みやグリーンエネルギー事業については、これまでも取締役会や取締役座談会において活発に議論が交わされ、着実に成果も上げてきています。これまで進めてきた各事業の展開を礎として、今後は当社が実現すべき最適な事業ポートフォリオと、そのビジョン達成に向けた確かな道筋を、グループ全体を俯瞰した視点から見据えて、構想から描き出すべき段階にあると考えます。 

※ 北米支店が策定した2050年における北米事業の目指す姿、およびその実現のためのロードマップと具体的成長戦略

 

当社グループのグローバル化が進む中での、 ガバナンス、人材、組織の強化について

大林 海外投資の拡大に伴いグループ会社が増加し、グローバル化が一層進展する中で、ガバナンスや人材、組織体制の強化が一段と重要な経営課題になっています。これらの課題に当社グループとしてどのように対応していくべきか、皆さまのご意見をお聞かせください。

 

黒田 これまで当社グループが実施してきた海外建設会社のM&Aについては、当社の知見を最大限に活かせる領域を見極めた上で、対象企業との相互理解を丁寧に深めながら投資判断を行っており、そのプロセスは非常に有効に機能していると高く評価しています。一方で、海外建設会社の監督は、現状では、個別案件の管理にとどまっている印象も見受けられます。今後の海外展開、とりわけ北米などにおいては、現地グループ会社のCEOなどの経営能力やサクセッションプランを本社がしっかりと把握・監督する仕組みを、より一層強化していく必要があると考えます。

加藤 グループ会社数の増加はリスクでもあります。今後のM&Aにおいては、一定の事業規模を有し、ガバナンスが自律的に機能している企業を対象とすることが重要です。また、中長期的には複数のグループ会社の統合も選択肢となり得ます。組織運営面においては、海外事業の経営は現地人材に委ねつつ、本社がその経営を監督する体制が望ましいと考えます。併せて、子会社の経営を監督する人材の育成に向け、若手社員を海外グループ会社のCEOやCFOの補佐役として派遣し、週次で本社にレポートを提出させるなどの仕組みの整備が重要です。これにより、本社の的確な監督機能の実効性向上と、グローバル人材の育成を高い次元で両立できると考えます。

 

池川 加藤さんのお考えがある一方で、海外現地トップの報酬水準は円安も相まって上昇していることもあり、日本から社員を出向させ、長期にわたり現地でマネジメントを担わせる手法も選択肢の一つになりうるのではないでしょうか。また、組織体制に関しても、本社の経営陣がすべてを直接管理するのではなく、地域統括会社を設置し、ガバナンス機能の実効性を高める分権体制への移行を推進していくべき段階に来ていると考えます。

 

注連 海外グループ会社に対するガバナンス強化については、前職では、現地の状況について詳細かつ定期的なレポーティングを徹底する体制が有効に機能していました。また、重要な契約の締結に際してなどは、現地に一任するのではなく、本社においても厳格なチェックを行うなど、実効性のあるガバナンスを利かせる必要があると考えます。

 

折井 当社グループの規模拡大に伴い、遠心力とともにグループ求心力が一層重要になっています。大林組の企業理念や創業以来の精神である「三箴(良く、廉く、速い)」は、グローバルに共感やリスペクトを得る扇の要となるものであり、理念浸透の取り組み方針を明確にして、国内外で共有と実践が進むことを期待しています。また、安全と品質の確保を最優先とする当社の価値観を継続的に発信することも必要です。企業理念で掲げる「誠実なものづくり」は、安全と品質の確保とも強く結び付く当社のDNAであり、大林グループ全体で一層徹底していくことが求められます。加えて、女性やシニアを含む多様な人材の活躍が、組織に多様な知見をもたらし、イノベーションを促すことを期待します。女性リーダー育成のパイプラインの拡充も引き続き注視しています。

 

注連 折井さんからご指摘のあった多様な人材の活躍という観点に関連しますが、人事制度に絶対的な正解はなく、環境や状況の変化に合わせて最適化していくことが重要と考えます。松下幸之助氏が説いた「事業は人なり」の言葉のとおり、人材育成は事業運営の根幹であり、社員の帰属意識や向上心を高める制度を継続的に追求し、状況に応じて適切に見直していく必要があると認識しています。


黒田 ガバナンスの観点からもう一点、役員報酬制度の改定について触れさせていただきます。これまでも継続的に提言してきましたが、建設業は工事の受注から収益計上までのスパンが長く、単年度の経営努力と短期業績の連動性が相対的に低いという特性を有しています。こうした特性を踏まえ、今回、筋の良い成長戦略を描き、それを着実に実行できるかを評価する「中長期業績連動報酬(LTI)」を厚めに設定し、業績連動報酬比率を引き上げた今回の制度変更は、極めて理にかなっており、高く評価しています。


加藤 業績連動報酬の比重を高める方向性については、適切な判断であったと考えています。建設業ならではの特性を十分に勘案し、定量的な数字に加え、その年度の業績への貢献度といった定性的評価も重視することが不可欠です。こうした定量・定性のバランスを確保しつつ、透明性と客観性の高い運用を徹底していく必要があると認識しています。

 

次期中期経営計画において、 どのような価値創造ストーリーを示すべきか

大林 最後に、次期中期経営計画において、どのような価値創造ストーリーを示すべきかについてご意見をお願いします。

池川 佐藤社長の考えを色濃く反映した計画が策定されることを大いに期待しています。本計画は、今後の中期的な経営方針および具体的な経営施策を示し、当社グループの価値創造ストーリーをあらゆるステークホルダーに訴求する上で極めて重要なメッセージとなります。中核である国内建設事業におけるプレゼンスの向上や、北米やアジア、豪州などにおける海外建設事業の強化、オセアニア地域などにおけるグリーンエネルギー事業の具体的展開、海外における開発事業の強化といった要素を一貫したストーリーに組み込むべきです。また、事業分野ごとに設定したROIC基準に対する意識付けを徹底した上で、自己資本と有利子負債、営業キャッシュ・フローを総合的に勘案し、成長投資、技術投資、株主還元などのキャッシュアロケーションの最適化を追求する検討が重要です。一方で、水素事業をはじめとするグリーンエネルギー分野については、水素の海上運搬コストの高さや受け入れ・保管・流通インフラ投資のハードルという制約を踏まえ、投資継続の妥当性を見極めつつ、事業の再定義を含めた将来的な事業戦略を深く検討すべき段階にあると考えます。

黒田 資本市場から適切な評価を獲得するためには、事業別のROIC基準を開示すべきと考えています。また、当社グループがグリーンエネルギー事業に取り組む意義についても、投資家が十分に納得できる論理的な説明を尽くす必要があります。事業別ROICや資本コストといった評価尺度を社内外に明確に示し、事業ポートフォリオを継続的に最適化していくことが重要です。

 

加藤 当社グループのコア・コンピタンスである建設事業で海外展開を推進することに加え、建設事業と親和性が高い海外開発事業を重点分野として伸長させていくべきと考えます。その際、構築したアセットを単に保有し続けるのではなく、適切なタイミングで売却し、資産を回転させながらバランスシートを機動的にコントロールしていくことが重要です。

 

折井 グローバルな事業展開を踏まえ、必要自己資本の水準について、改めてしっかり議論する必要があります。次期中期経営計画は、大林組基本理念やObayashi Sustainability Vision 2050に立脚し、各事業が有機的に結び付く俯瞰的な構想を描くことが重要です。成長の原動力となる人的資本や独自技術を含む骨太なストーリー構築へ議論を深めたいと考えます。また、2027年国際園芸博覧会は大林グループが社会にもたらす価値を広く伝える好機と捉え、効果的に活用すべきではないでしょうか。

 

注連 次期中期経営計画の策定にあたっては、まず現行の中期経営計画を徹底的に検証し、完遂に至らなかった施策についてはその要因を深く分析した上で、目指すべき姿を明確にすることが重要です。新規事業の開発に関しても積極的に取り組んでいますが、早期に見極めを行い、十分なリターンが期待できない案件については、躊躇なく早期に撤退する判断が求められます。また、開発事業における保有アセットの有効活用については、現在の枠組みにとらわれることなく、今後も多角的な議論を深めていく必要があると考えます。

 

大林 本日は、多岐にわたる貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。事業および投資の継続判断にあたっては、過去の経緯にとらわれることなく、将来性の観点から客観的に評価した上で、適時適切に意思決定を行うことが重要であると認識しています。当社グループの持続的な成長に向けて最適な選択とその着実な実行が図られるよう、社外取締役の皆さまには、今後も多様な視点からご意見をいただきたいと考えています。

(このダイアログは2026年4月に行われました。)