国内建設事業を中核として、
それ以外の事業が国内建設と同等以上の
業績を創出する事業ポートフォリオを構築し、
大林グループの持続的な成長を目指します
代表取締役社長 兼 CEO
大林グループを形づくってきた2つの価値観
不確実性の高まりと社会の構造的な変化が同時に進行する中で、第2次世界大戦後、米国を中心に築かれ維持されてきた政治・経済の国際秩序が揺らぎつつあり、企業を取り巻く環境は従来に比べて見通しにくい状況となっています。このような時代において、大林グループが持続的な成長と企業価値の向上を推進していくためには、創業以来受け継がれてきた「誠実なものづくり」と「挑戦」という価値観を、すべての社員が共有し、自身の判断と行動の軸に据えていくことが重要と考えています。
私が大林グループの原点とも言える「誠実なものづくり」と社員一人ひとりの「挑戦」について、繰り返しその重要性を訴えているのは、それらが、不確実性が常態化した時代において、いかなる変化にも対応できる経営基盤を構築する前提であるとともに、それらの徹底が社会ニーズや需給の変化を成長の機会として予断なく柔軟に捉え続け、顧客提供価値を高く維持し、大林グループの持続的成長と企業価値向上を実現するための王道かつ近道であると考えているからです。
「誠実なものづくり」が支える信頼関係と、社会の要請への対応力
「誠実なものづくり」は、1892年の創業以来、大林組に受け継がれてきた価値観です。創業者・大林芳五郎が仕事に対して常に「誠実」であったその経営姿勢は、支援者、発注者、社員、協力会社など、事業に関わる皆さまからの信頼につながり、今日までのその積み重ねが、現在の大林グループの事業基盤を形づくってきました。この考え方は1935年に「三箴―良く、廉く、速い」として明文化され、単なる施工や調達、生産性の指針にとどまらず、時代の変化に柔軟に対応しながら、社会から信頼され続けるための行動原則として位置付けられてきました。
社会資本の整備を通じて人々の生活や産業活動を支える、社会に不可欠な役割を担う建設事業は、協力会社やサプライチェーンを含む多くのステークホルダーとの協働のもとに成り立っています。創業135年を迎えた今日まで、弛むことなく実践してきた「誠実なものづくり」という価値観は、こうした多様な関係者との信頼関係を基盤として社会の要請に応え続けてきた当社グループの競争力であり、その成長の源泉です。私自身、「誠実」とは「高い倫理観、道徳観および品性を持って正しい行動を実践する高潔性」であると捉えており、経営の最優先事項として徹底して取り組むべき「安全・品質の確保」や「コンプライアンスの徹底」をはじめとする経営課題は、その延長線上にあります。
「挑戦」する社員が牽引する価値創造
また、大林グループには「挑戦」というDNAが連綿と受け継がれています。大林芳五郎が一代にして建設業界における大林組の地位を確立した背景には、当時は実現困難とみなされていた難工事にも果敢に挑み続けてきた姿勢とその環境で育成された多様な個性・才能がありました。
今の大林グループには、先人たちの挑戦の積み重ねによって培われた技術力、マネジメント力、バリューチェーン、人材、財務基盤など、強固な経営資源があります。私の役割は、これらを土台として、社員が会社と揺るぎない信頼関係を築き、失敗を恐れず何度でも挑戦できる企業文化をさらに定着させることです。その上で、会社と社員がそれぞれの成長に向けたベクトルを合わせ、社員一人ひとりの自己実現が大林グループの持続的成長につながる組織づくりを積極的に進めていきます。こうした組織の下で、社員が自身で設定した目標を最後まで諦めることなく最善を求め、全力を尽くして挑み続ける大林グループの「挑戦」のDNAを今後も大切につないでいきたいと思います。
複雑かつ見通しのきかない経営環境
長期化するロシアによるウクライナ侵攻や、イランに対するアメリカ・イスラエルの攻撃により再び不安定化する中東情勢など、地政学リスクの発現が恒常化しています。加えて、金利上昇やトランプ政権の相互関税政策による混乱、中国経済の停滞、生成AIの想定を超える進化など、複数の要因が相互に影響し合う中、先行きに対する不透明感が増しており、経営環境は複雑かつ見通しにくい状況となっています。堅調に推移する国内外の市場環境に甘んじ、過去の経験やデータに依拠したこれまでどおりの経営への取り組みでは、経営環境の変化のスピードには対応できません。起こりうる事象とその影響を具体的に想定し、プロアクティブに実行可能な対策を取り続ける柔軟な経営体制を構築していく必要があります。
国内外の事業環境に対する認識
これは、大林グループの中核事業である国内建設事業においても喫緊の課題です。国内建設投資額は、2025年度の76兆円から2026年度は30年ぶりに80兆円を超える水準となる見込みであり、需要は当面、幅広い分野で堅調に推移するものとみています。その内訳は、都市部での再開発事業や防災・減災、国土強靭化対策などに加え、経済安全保障を背景とした半導体関係をはじめとする大型設備投資、AIの加速度的な進化に伴うデータセンター需要の拡大、地政学的リスクの高まりを背景とした防衛関連工事などであり、非景気循環型の需要が増加しています。
供給サイドに目を転じると、建設産業は深刻な人手不足と高齢化、長時間労働、低い賃金水準、資材価格や労務費高騰、工期や支払い条件をはじめとする片務的な契約条件など、多くの課題に直面してきました。これを受け、2025年度には「建設業法」改正を含む「第三次・担い手3法」や「取適法※1」 の改正、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」など、制度環境の整備が進められています。建設業そのものが持続可能な産業構造でなければ、設備投資需要に対応し続けることは困難であり、将来的に社会インフラの整備に支障を来し社会資本整備コストの上昇を招く恐れもあります。担い手確保に向けた労働者の処遇改善や資材価格高騰への対応、働き方改革と生産性向上は、建設業が将来にわたり魅力ある産業であり続けるために克服しなければならない課題であり、国内建設市場におけるリーディングカンパニーとして果たすべき大林グループの役割と責任は極めて大きいと認識しています。
また、安全と品質の確保が経営の最優先事項です。国内建設事業においては、協力会社の皆さまも含めた全社一丸の取り組みにより、2025年度の総災害件数は前年度比で約2割程度減少した一方、死亡災害の撲滅には至らなかったことを、重く受け止めております。引き続き、事業に関わるすべての方々の安全を確保することが当社グループの社会的使命であるとの強い認識の下、安全管理の徹底に努めてまいります。
一方、北米、アジアを中心に取り組む大林グループの海外建設事業は堅調に推移しています。北米は年間300兆円を超える世界最大規模の建設市場であり、インフラやエネルギー需要、半導体を含む製造工場、AI需要を背景としたデータセンターなど、市場は拡大基調にあります。その需要を取り込むべく、当社は2023年の水処理関連施設の建設などを行うMWH社のM&Aに続き、2025年にはクリティカルエンバイロメント※2分野で豊富な施工実績を有するGCON社をM&Aにより連結子会社化しました。また、主要子会社の一社であるウェブコー社は、停滞する民間不動産デベロッパー投資を背景にこの数年で主要ターゲットを公共の教育施設や医療施設に切り替えるなど、事業環境の変化に対応しています。
アジアにおいても、経済成長を支える社会インフラ、エネルギー関連施設、AI需要を背景としたデータセンターなどの需要が建設投資を支えており、人口増加の見通しや地政学的リスク分散の観点なども背景に、今後も各国の建設投資は安定的な成長が見込まれています。その中で、シンガポール、タイ、インドネシア、ベトナム、台湾を中心に、大林グループ各社も持続的な成長の実現に向けての取り組みを継続しています。
1 取適法:正式名称は、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
2 クリティカルエンバイロメント:研究施設、データセンター、病院、製造施設など高度な環境管理が要求される施設
中期経営計画2022最終年度の位置付け
中期経営計画2022(以下、「中計2022」)は、最終年度を迎えました。2022年3月の公表以降、建設資材価格の高騰や生産力を上回る建設需要の拡大、世界的なサプライチェーンの混乱など、策定当初の想定を超える環境の変化に直面したことに加え、より資本効率性を重視した経営に取り組むべく、経営指標目標も見直した上で2024年5月には中期経営計画 2022追補(以下、「中計2022追補」)を公表しました。中計2022にて掲げた「事業基盤の強化と変革の実践」を着実に進めてきたこともあり、2025年度も2024年度に続き、業績指標目標ならびに株式市場が期待する株主資本コストを上回る自己資本当期純利益率(ROE)10%以上を達成することができました。
一方、事業ポートフォリオ別の現状を分析すると、中計2022策定時の想定とは大きく様相が異なっています。国内建設事業は、国土強靭化、安全保障、経済安全保障などに関する国の施策も背景に、社会インフラ整備、防衛関連施設整備、半導体工場、データセンター、製造機械工場、電池製造工場などの受注シェアが、想定を上回って推移しました。反対に、大林グループの収益の柱の一つとして参画を目指した国内再生可能エネルギー事業は、洋上風力発電事業をはじめとして想定を大きく下回って推移しました。海外建設事業では、過去にM&Aにより取得した北米の子会社や、ナショナルスタッフ中心の事業運営を進めるアジアの子会社が、それぞれ自立し成長していることもあり、連結売上高に占める割合は30%を超えるまでに拡大しています。開発事業においては、国内外で業績拡大が図られているものの、資本効率性の低さへの対処が課題であり、適切な保有資産規模や資産のオフバランス化の検討も含め戦略の見直しに着手したところです。また、新領域ビジネスにおいては、成長投資を継続しながら、大林グループの持続的成長に寄与すべく、複数の収益事業を立ち上げています。
Obayashi Sustainability Vision 2050の再構築
中計2022の最終年度である2026年度は、経営指標目標の達成はもちろんのこと、計画で掲げた施策の実行に徹底して取り組むとともに、次期中期経営計画(以下、「次期中計」)策定に向けて議論を進めています。次期中計の策定に先立ち、「Obayashi Sustainability Vision 2050」(以下、「OSV2050」)を再構築しました。OSV2050は、2011年に策定した中長期環境ビジョンである「Obayashi Green Vision 2050」を発展させるかたちで2019年に改訂したものです。改訂から7年以上が経過し、当時と社会動向が大きく変化し、将来の事業環境が想定と異なってきたことに加え、掲げている事業展開の方向性と目標などが概念的な内容にとどまっていたことから、中期経営計画などの経営戦略・事業計画の策定、評価に十分に反映できない状況でした。OSV2050の再構築では、事業環境の変化を踏まえ目標を再設定するとともに、その達成に至るロードマップをより具体的に記述することで、経営戦略・事業計画をガイドし得るビジョンとすることを企図しています。次期中計はこの再構築したOSV2050をガイドラインにして策定を進めており、 OSV2050は次期中計と併せて公表する予定です。
人事制度改革
次期中計に向けて、人事制度の再構築にも取り組んでいます。会社と社員がそれぞれの成長に向けたベクトルを合わせ、社員一人ひとりの自己実現が大林グループの持続的成長につながる組織づくりが私の役割と述べました。その実現には、人的資本の最適化、会社と社員の成長に向けてのベクトルの一致の観点から、人事制度の抜本的な見直しが不可欠と考えています。具体的には、国内建設事業では、バブル期の大量入社世代が定年期を迎え中堅層が薄い要員構成の中、職務・職責の大きいポストに積極的に次世代の人材を登用する必要があること、海外建設事業では、グローバル人材を長期的、戦略的に育成・確保する必要があること、建設事業以外の事業の発展のためには、大林グループにはない知見や技術を持つ外部人材を獲得する必要があることなどの課題があります。同時に、社員とその家族の意識の変化やワーク・ライフ・バランスにおける価値観の多様化に対応することで、社員のエンゲージメントを高め、国内外で多様な人材が失敗を恐れず挑戦し、最大限能力を発揮できる組織人事制度としたいと考えています。また、管理職層については、中長期的な業績や株価への意識を高め、株主の皆さまとより一層の価値共有を進めることで、企業価値向上に資する業務遂行を促すことを目的に、株式付与ESOP(Employee Stock Ownership Plan)信託を活用した株式交付制度も導入しています。
サプライチェーンを含めた事業基盤の認識と対応
建設需要が高い水準で推移する一方で、供給側の課題が顕在化しています。建設産業は、人手不足や高齢化、資材価格や労務費の高騰など、長年にわたる構造的課題を抱えており、国内建設市場の施工能力そのものが市場の成長の制約条件となっています。また、働き方改革をはじめとする労働環境の変化により、繁閑を労働時間などで対応するといった従来の延長線上で事業を運営することが難しくなってきています。こうした状況を踏まえ、サプライチェーンは単なるコスト構造ではなく、事業継続の前提となる重要な経営基盤であり、協力会社を含めたサプライチェーン全体での持続可能性を確保することが不可欠であると認識しています。そのため、取引適正化や支払条件の見直しを通じた協力会社の経営基盤の安定化や、労働環境の改善、技能労働者の教育支援、採用活動など担い手確保への協力など協力会社との関係強化に継続的に取り組んでいます。今後も、サプライチェーン全体の持続的な発展を見据えた取り組みを進めてまいります。
AIによる生産性の向上
中計2022では、デジタル技術の活用による生産性向上を目的として、建設現場における省力化や自動化・自律化施工技術の開発などを推進してきました。概念実証にとどまらず、建設現場業務への実装に移行している技術もあり、一定の投資成果が表れてきています。一方で、中堅層の社員が少ない要員構成の下、知識・技能の伝承や組織知の最大化が急務となっています。また、業務プロセスの一部は個人の経験や属人的な知見に依存しており、組織としての知識や判断の蓄積・活用に資するデータ蓄積が十分とは言えない状況です。そのため、AI戦略を立案・推進する組織をグローバル経営戦略室の直下に設置し、各部門との共創を通じて業務プロセスの再構築を全社的に推進し、高度なAI活用の前提となるデータベースの構築に取り組んでいます。AIの急速な進化により、 AIを業務に実装できるかどうかが思考や判断、実行スピードを大きく左右し、競争力そのものを規定する時代になりつつあります。これは単なる効率化やコスト削減にとどまらず、業務の在り方や意思決定の構造そのものを変革していく取り組みであると捉えています。8,000人規模のトップレベルの建設エンジニアを中心として大林グループが擁する人材群は、これからも大林グループの最大の競争力の一つです。その競争力を最大限に引き出すべく、生成AIの活用により、社員には持続的成長のための課題設定や仮説の構築といったより高度な役割を担ってもらい、人的資本の価値向上を図ります。また、人口減少に伴う担い手不足への対応として、AIを搭載したロボットや建機などによる自動・自律運転の実装を進め、危険作業の低減や作業環境・労働条件の改善を図るとともに、建設現場におけるフィジカルAIの導入により、建設業の持続的な発展に取り組んでいきます。
持続的成長の方向性と資本効率の向上
中計2022追補において、大林グループの持続的成長の方向として「国内建設事業を中核とし、それ以外の事業が国内建設と同等以上の業績を創出する」を定めました。大林グループが持続的な成長を実現していくためには、これまで同様、国内建設事業を大林グループの中核事業に据え国内建設市場でのリーディングカンパニーとしての地位を堅持していくことを経営の譲ることのない一線とした上で、海外建設事業、開発事業、グリーンエネルギー事業、新領域ビジネスと、グローバルに多様な事業を展開するポートフォリオの構築を着実に進めていく必要があります。その過程においては、M&Aを短期的な業績や規模拡大を目的とするものではなく、中長期的に事業ポートフォリオを発展させていく重要な戦略的手段として位置付けています。具体的には、大林グループの経営資源の活用により対象企業の成長を実現できること、大林グループが参入すべき新たな市場への戦略的なアプローチとなり得ることなどをその判断基準としています。今年度に発表したMultiplex社のM&Aは、大林グループの豪州の建設市場への本格的な進出とともに、英国における建設事業の基盤獲得およびカナダにおける建築事業の拡大を目的としたものであり、また、インドネシア・ジャカルタにおける高速道路コンセッション事業への参画は、長年にわたり協働してきた現地パートナーとの関係を基盤とする新たな事業領域への参入を目的としたものです。
次期中計では、中計2022における事業環境や事業ポートフォリオの変化と課題を踏まえ、大林グループの企業価値向上を実現するため、各事業の成長戦略や目指す将来像、ならびにその実現のために必要となる自己資本や資本コストを改めて明確化します。資本効率を重視し、目標とする投下資本利益率(ROIC)およびROEを改めて事業ごとに設定した上で、大林グループ全体の収益を創出するバランスシートの在り方や資産の効率性をROAの水準によってコミットメントすることなど、経営指標目標や株主還元を含む資本政策をお示ししたいと考えています。
ステークホルダーの皆さまへのメッセージ
「誠実なものづくり」と社員一人ひとりの「挑戦」が大林グループの持続的成長と企業価値の向上の源泉であることは、不確実性が常態化したこの時代においても不変です。その上で、社長として私が果たすべき責務は、建設事業における安全・品質の確保やコンプライアンス遵守を徹底するとともに、大林グループの持つ強固な経営基盤と多様な経営資源を最大限活用できるよう経営の舵取りをすることです。さらに、国内建設を中核事業として、社会課題に事業機会を見いだし、課題解決に向けて多様なソリューションを提供する事業ポートフォリオを確立していきます。そして、「誠実なものづくり」と「挑戦」という価値観を実装した組織を構築し、社会の要請に応えることで、すべてのステークホルダーの皆さまに必要とされ、信頼される企業であり続けるべく全力を尽くしてまいります。
今後とも変わらず当社グループの取り組みにご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
2026年9月