さらなる企業価値向上を目指して、
自由闊達な議論を深める

(画像左)社外取締役 加藤 広之

三井物産株式会社取締役を経て、同社アドバイザーを務める。2021年から現職

 

(画像中央)社外取締役 折井 雅子

サントリーホールディングス株式会社の執行役員やサントリーウエルネス株式会社取締役を経て、サントリーホールディングス株式会社の顧問を務める。2020年から現職

 

(画像右)社外取締役 黒田 由貴子

ソニー株式会社を経て、株式会社ピープルフォーカス・コンサルティングの顧問・ファウンダーを務める。2022年から現職

大林グループのガバナンスの実効性ならびに透明性に対しての評価は。
今後、よりよくしていくために優先度の高い課題は

折井 昨今の大林組を振り返ると、取締役会を中心にガバナンスを着実に「前進」させてきたと感じます。「大林グループ中期経営計画2022」(以下、中計)の策定、株主還元方針へのDOE採用、役員報酬制度の改定、トップの選解任基準と後継者育成の明文化などを経て、2024年3月の資本政策の見直しへと、大林組らしく「構築」してきた印象です。その背景にあるのは、社内・社外取締役相互の信頼感と適度な緊張感に基づき多様な視点で率直に議論する土壌です。課題は、この「前進」を止めずに加速する強い意志で全員が臨むこと。特に、重大災害の重みを受け止めた安全・品質の確保と、大林グループの「人」こそが強み、となるような人的資本の議論を深めたいと思います。

黒田 1年ほど前に、取締役座談会という場を設け、中長期の戦略や課題などについて定期的に検討するようになりました。中でも、資本政策の見直しについて何度も議論したことが2023年度の特筆すべきことでした。横並び的に自社株買いを実施したりするのではなく、中長期の成長戦略も踏まえた上で、目指すべきROE目標とROIC目標に必要な自己資本の水準や株主還元の割合を見直しました。今後は、成長戦略の実現に向けて、事業ポートフォリオの在り方や無形資産の構築と活用が優先的な課題になると考えます。

加藤 私も、取締役会を補助すべく新設した取締役座談会により、社内外の取締役が自由に議論する場ができたと感じています。取締役会および取締役座談会により風通しの良い議論ができつつあり、一つの成果が3月に開示した資本政策の見直しでした。一方、お二人が言われたように、企業風土や人材育成といったテーマも重要です。特に、優先度は高いが、まだ十分に議論できていないのが中核事業である建設事業そのものかもしれません。大林グループの稼ぐ力の源泉はなんといってもこの分野で、最も重要なテーマである安全や品質といったテーマは広く、深く議論する責任があると考えています。

大林グループの強みや社員の資質や特長は

折井 社員の皆さんからは、物事をしっかりと構築して「形にする力」の大きさを感じます。女性社員の自発型プロジェクトやダイバーシティ&インクルージョン( D&I )推進部との定期意見交換、さらに先日、令和6年能登半島地震への対応を支店長から聞いた際も、それぞれから「ものづくり」へのプライドと責任、真摯さが伝わってきました。戦略を実現させるのは、最後は現場の一人ひとりで、こうした資質は大いなる強みだと思います。今は、価値の創出とともに、その意味を訴求し伝えていくことも重要です。持ち前の強みを活かしていくためにも、ダイバーシティを加速し、個性をより発揮するようなマインドと風土を高めていくことも大切だと感じます。

加藤 強みをひと口で語ることは難しいですが、大林グループの社員と触れて感じることは、誠実さ、自由闊達でざっくばらんなところ、プロ意識などが挙げられます。これは、現場に権限を持たせ、現場に任せるという風土を醸成しており、これが「人間力」や「現場力」が強いと言われるゆえんであると思います。任されたことはやり切る力があります。今後の課題となるのは、自由な発想で新しいものをつくり上げる仕組みづくりになるのかもしれません。個々の自由な発想を事業に活かし、育てる仕組みを構築するためにも、より自由闊達な議論も必要だと考えています。

黒田 大林組の強みは現場力にあると聞いていますが、残念ながら、私はまだ現場の社員と接する機会が多くありません。オフィス部門の社員については、その目線と能力の高さを感じることがよくあります。先に述べた資本政策の見直し時や、経営戦略を議論する際に用意される討議資料は大変優れていると感じます。レトリックを並べるだけではなく、データアナリティクスなどを活用し統計的検証がなされたりしています。コンサルティング会社からの創作物かと思いきや、自分たちで作成したとのことで、大変驚きました。

さらなる企業価値向上に向けて、社外取締役の立場から果たすべき役割について

加藤 過去数年間の資本政策に関する議論が実を結び、資本市場からも良い評価を得ていることは大きな前進です。これを持続可能かつより強いものとすべく、強固で成長力のある収益基盤を構築する必要があります。これは執行サイドの側面が強いのですが、社外取締役としてもそのための戦略、実行、人材育成などの議論に加わり、モニタリングすることが必要です。また、中核である建設事業では海外比率が高くなっており、今後、海外事業を成功させるにはローカル人材の活用が不可欠となってきます。同時に、グループ全体のガバナンス体制をより強固なものにする必要があり、特に、経営を監督できる経営人材の育成は急務であると考えています。

黒田 私自身の役割は、大林グループが向かうべき方向や経営戦略の策定に貢献すること、内部統制やリスク管理について目を光らせること、そして株主のほか、さまざまなステークホルダーの観点をインプットすることだと認識しています。ゼネコンは歴史が長い業界ゆえ、独特の商習慣や価値観があり、それに対して違和感があれば率直に指摘していくことを心がけています。

折井 中計で掲げる持続的成長に向けた「変革の実践」が的確・確実に進むよう、課題感・スピード感・組織文化への反映などの観点を持って、取り組みを注視したいと思います。さらなる企業価値向上についてですが、先日、NHK「新プロジェクトX」の初回で、大林組が挑んだ「東京スカイツリー®」の建設工事が取り上げられました。私も昨年、実際に技術研究所を訪問し、大林組の根幹にある「技術」の凄みを体感しました。理念と技術を備えた大林グループだからこそ、「カーボンニュートラル」「ウェルビーイング」に寄与する技術を活かし、社会のサステナビリティに貢献し、持続的な成長ができると期待を持っています。「企業理念」「技術」「戦略」が整合して展開されていくように、議論を深めていきたいと考えています。

株主・投資家の皆さまへのメッセージ

黒田 3月に発表した資本政策については、マーケットから高く評価していただきました。株主還元策を発表すると、株価が上昇した後すぐに元通りになることが少なくありませんが、今回そうならなかったのは、中長期の戦略や方針も含めて投資家の皆さまにご理解いただいたからではないかと考えています。これからも小手先の株価対策ではなく、中長期での企業価値向上を目指したく、投資家の皆さまからも叱咤激励していただければ幸いです。

折井 投資家の方々をはじめとするステークホルダーからのさまざまな期待に応えていく源泉は、社会に対して価値を創出し、企業として持続的に成長するところにあります。大林グループの企業理念に基づいてそれが実現されていくように、時間軸・空間軸で多様な視点を意識して、リスクや機会を評価していきたいと思います。 今春の資本政策の見直しに対してご評価をいただきました。今後もさまざまな材料をもとに、成長投資と株主還元の適切なバランスを判断することで、株主の利益と企業の成長の両立を目指すことが求められると認識しています。

加藤 中計では、初年度より不採算案件が顕在化し、計画された数値を実現できていませんが、大林組には稼ぐ力があると確信しています。事実、現在、業績は回復途上にあり、2025年度、2026年度には当初の計画にかなり近い数値を達成できると期待しています。私たち社外取締役にはそれをしっかりとモニタリングする責務があると考えます。一方、取締役会の議論の中で、資本政策を抜本的に見直した結果、株主還元はかなり改善しました。株価、株主を意識した経営が実現されつつあるのは大きな前進です。収益基盤の拡充と、それに基づくさらなる還元という好循環が実現できるよう、引き続き議論していきたいと思います。